バンドマンの女という概念

バンドマンの嫁に進化しました。幸せです、残念ながら。

純白のウェディングドレスを選ばない、という選択肢

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「結婚式」という言葉を聞いて、あなたが最初に思い浮かべるイメージはなんだろう。

世の中の多くの人がきっと、純白のウェディングドレスを着た幸せそうな花嫁の姿を想像するのではないかと思う。

それくらいに、結婚式というイベントには真っ白なウェディングドレスがイメージとして強く結びついている。多くの女の子たち、世の女性達にとって幸せや憧れの象徴でもあるそれ。けれど私はその真っ白なウェディングドレスを、自分の人生の中でこれまで一度たりとも着たいと思えたことがなかった。

おかげで、学生の頃は自分の人生に結婚という二文字は存在しないものだとも思っていた。人の人生とは数奇なもので、そんな私が来るこのオリンピックイヤーの閏日に自分の結婚式本番を迎えるのだという。10年前の私がこの話を聞いたら、もの凄く嫌そうに顔を顰めて今の私に尋ねるのだろう。

「まさかウェディングドレスを着たの?あんたが?」

 

幼い頃から、とかく自分に女の子らしいものが似合わないことは知っていた。色の白い肌、守ってあげたくなるような身体、ゆるいパーマのかかったふわふわの髪、パステルカラー、スカート、可愛いピンクのチーク。自分の人生において羅列した文字とは正反対のものばかりを纏って生きてきた私は、今こうして文字を打つ自分の指先が白とラメのジェルネイルにコーティングされていることさえ、気恥ずかしさを覚えてしまう。式の前撮りを明日に控え、28歳で初めての手元ジェルネイルに挑戦したのだ。10年前の自分にこんな話をしたら、幸せそうな浮かれポンチになりやがって、ときっと鼻で笑われてしまうかもしれない。

それでも、私は私らしく生きていきたい。女として生きることを諦めていた私に、私はあの頃と何も変わっていないよ、とちゃんと胸を張っていたいのだ。

結論から言おう。私は純白のウエディングドレスを選ばなかった。

自分へのコンプレックスで、それを選ばなかったのではない。

私の結婚式において、それは私の中でとても順位の低いものだったからに過ぎないのだ。

 

幼い頃、両親の結婚式の時のムービーを祖父母の家で見たことをぼんやりと覚えている。

ブラウン管の中の母は真っ白な白無垢を纏い、たくさんの人に祝福されていた。私の身近な結婚式の記憶は、この映像が最初になっている。

また、音楽の好きな私はレミオロメンの「3月9日」という曲がとても好きだ。多くの人が卒業式を思い浮かべるこの曲、実は友人の結婚式を祝う曲だというのをどれだけの人が知っているのだろう。楽曲のMVでは、卒業式を終えたばかりの堀北真希がその足で姉の結婚式へと向かう。姉妹の心の機敏な揺れに同じく妹のいる私が強く共感と感動を覚えたのと同時に、映像の中の姉の綿帽子の白無垢姿を、とても美しいと思ったのだ。

結婚式を行うと夫と2人で決めた時にはすでに、私の心の内は決まっていた。記憶の底から蘇る、美しい凛とした白無垢姿の花嫁。私は、これになりたい、と。

 

それでも挙式の準備や打ち合わせを進めながらいろんな人と会話をする中で、私のように純白のウェディングドレスを選ばない、という選択肢はまだまだマイノリティなのだと思わされる。私がうっかりしていると、式場のスタッフさんや周りの友人たちは、私が純白のウェディングドレスを着る事を前提として話を進めてくるからだ。

「あ、私ウェディングドレス着ないんですよ」というと、多くの人が驚いた顔をする。白無垢を着るのだというと大概の人は納得をしてくれるのだが、前撮りでも着ないと話すと時には「もったいない」「一生に一度なのに」と言われてしまう時もある。

それでも構わないのだ。たくさんの真っ白なウェディングドレスより、奥に飾られていた毒々しい濃淡の紫色のドレスと、人魚のような鮮やかな青のグラデーションのドレスと、大きく羽ばたく鶴の描かれた真っ赤な色打掛に惹かれてしまったのだから。純白のウェディングドレスで畏まる姿より、10年以上続けてきたドラムセットと私と、世界で一番格好いいベースを抱えた夫の姿が写った、賑やかで華やかな結婚写真を私は残したいのだから。

 

私が結婚式を迎える事を10年前の自分が聞いたら大層驚くことだろう。と同時に、普通に幸せになりたがって、と心のどこかできっと貶しているはずだ。

そんな私に見せられるような結婚式の写真を、私は残したい。ドラムセットに座ってバカみたいに大口を開けて笑う、ちょっとだけふくよかな私の写真。真っ白なウェディングドレスの写真なんて1枚もない、私の結婚式の写真。

きっと昔の私も、「なにこれ」って笑ってくれるんじゃないだろうか。こんなふうになれるなら、大人になることも、年をとることも、悪くないって思ってくれることだろう。

 

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「かがみよかがみ」という媒体に応募してボツくらったやつです。ここに供養しとこうと思う。

結婚という選択肢を選んだやつでもシンプルに幸せになってるわけじゃなくて、やっぱりまあまあの固定概念に晒されてるよ、っていう話をしたかった。自慢みたいに伝えたくないんだけど書き方って難しいなあという話です。